2011年03月30日
トレイシー・チャップマンの声

坪内祐三の『本日記』のなかに「渋谷に出てHMVでトレイシー・チャップマンのベストを買う」という2002年の記述がある。トレイシー・チャップマンのデビューは1988年、彼女のファースト・アルバムは大好きで今でも年に数回は聴いている。
“ねえ判る?/生きることは走り続けること”と歌われる「トーキング・バウト・レヴォリューション」やヒットした「ファスト・カー」。“何もかもが白と黒に分けられている”と伴奏なしに静かなな怒りに満ちた声が印象的な「アクロス・ザ・ラインズ」など、どの曲もすばらしく、皆が寝静まった夜中に聴いていると、ヴォリュームを絞って聴いていても目の前で歌っているかのように引き込まれる。歌も曲もいいのだけど、なにより彼女の声に力がある。怒りや悦び、妬み、戸惑い、憂い、哀しみといった複雑な感情がストレートに伝わってくる。
それなのに僕は彼女のアルバムはこのファーストしか持っていない。好きになるとけっこうしつこく追いかけて、詰まらないアルバムがあってもなかったことにするのに、トレイシー・チャップマンだけは、どうも他のアルバムを買う気にならない。そのくらいこのファーストは完璧で、彼女のアルバムでこれ以上美味しく熟れた果実を手にすることはできないと思うのだ。いつでも、何度でも僕はこの新鮮でみずみずしい果実を口にすることができるのだから。
ところで、坪内祐三が購入したと思わしきベストの日本盤は、アマゾンの中古で高値(約6000円。輸入盤は安いです)がついている。ファーストなんか88円で、他のアルバムだと1円とかあるのに・・・。全アルバムを購入した方が安くなると思います!