『アメリカ―非道の大陸/多和田葉子』
『アメリカ―非道の大陸/多和田葉子』(青土社)を読了。
多和田葉子は好きな作家のひとり。『アメリカ』は“あなた”とよばれる主人公(?)がアメリカを旅する短篇集。アメリカのいろいろな都市で、街で、郊外で、砂漠で、飛行場で、ホテルで誰かと出会い、物語がはじまりそうな気配が濃くなったり、うつろになったりする。その気配の濃淡を描く掌編だ。
わりとさくさく読めるのだけど、言葉はその速度のまま僕の中を通り過ぎていって、僕の中に具体的なものは何も残らない。ぼんやりと、本を読んだという事実のみが所在なく佇んでいて、退屈なロードムービーを観たあとのようだ。
退屈なロードームービーなんて、本当は観たくもないのだけど、退屈でないロードムービーなんて、実はロードムービーでもなんでもないので、やはりここでの“退屈な”というのはこの小説を読む上でも大切なキーワードに違いない。ジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』みたいに。
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