『黒い時計の旅/スティーヴ・エリクソン』

もり

2011年03月23日 23:39



『黒い時計の旅/スティーヴ・エリクソン』(福武書店)を読了。

15年前に福武文庫で出たときに新刊で買ったものの、なかなか読み通すのがたいへんそうな気がしてずっと放置してあったのですが、昨年単行本を入手し、ようやく読み通すことができました。二段組で改行が少なくその物語同様に、黒く、濃密に詰まった活字を読み進めるのは非常に集中力を必要とし、読了するのに3週間もかかってしまいました。

乱暴に要約するとヒトラーの為にポルノ小説を書き続けた男の物語なのですが、現在と過去、そして男の描く小説が現実世界に影響及ぼし、いくつかの平行世界をいったりきたりしていくので、油断していると『黒い時計の旅』の中で、自分がどこに居るのかわからなくなってしまいます。

アメリカで生まれた男が書くポルノ小説がヨーロッパを席巻するヒトラーの目にとまり、彼個人から執筆の依頼を受けるようになります。第二次世界大戦前のウィーンに舞台を移し、彼の書いた小説とヒトラーの妄想によって生み出された女性が、現実の世界にリンクしてきます。彼女の数奇な人生も幻想に彩られていて、小説世界の中で現実なのか、虚構なのか、はたまた夢なのか容易に判断がつきません。しかしその世界が生み出す力は圧倒的で、ときには官能的ですらあり、他に類をみない読書体験になることは間違いありません。本当なら二日くらい家に閉じこもって、一気に読み通すべき小説なのだと思います。こんな凄い小説は早く読むべきでした。いつもこうした凄い作家を日本語に訳してきれる柴田元幸さんにも感謝です。

福武書店はもうないのですが、今は白水Uブックスで手に入れることができます。

 

関連記事