『若い荒地/田村隆一』

もり

2011年02月25日 23:58



『若い荒地/田村隆一』(思潮社)を読了。

『荒地の恋/ねじめ正一』を読んだあと、次ぎは何を読もうかと、積み上げた本を物色していたところ、思いがけずでてきたので読みはじめました。

田村隆一の生い立ちから詩人の仲間たちとの出会い、そして戦後「荒地」に発展する同人誌「ルナ」から「ル・バル」、「詩集」と語られます。詩人たちもそれぞれ徴兵され幾人かは死に幾人かは生き残ります。最後に鮎川信夫、北村太郎らとの座談会が納められています。最初は田村隆一の自伝的な内容だったのが、中盤からはずっと「ルナ」をはじめとする同人誌からの詩や詩論の引用で、田村隆一はそれぞれに短いコメントをいれているだけです。その引用というか抜粋は『荒地の恋』を読んだ後だと、田村隆一が手を抜いているようにしか感じません(北村太郎と田村隆一の妻の出会いも、きっかけは田村隆一が都合よく自分の翻訳の仕事を、ほとんど北村太郎の訳にもかかわらず、共訳という形で片付けようとした結果でした)。

同人誌を中心に戦争という抜き差しならない現実を前に、詩を書くという純粋な行為に向かう若者たちの群像が浮かびあがってきます。詩論はよく理解できないところもままあったのですが、おもしろいなぁと思った詩はいくつかありました。

ドアの外では
しづかな炎のむれが
物のかたちを壊してゆく
地下をながれる水の音は
ほんのわずかに震へる根を支へてゐる
そしてドアの内には
秘密の抽出がある
自分を掠めるために
肉体よりも柔軟に
けものや鳥よりもすばやい身支度で
夜はおそらくどこからでも忍びよる
わずかなドアの隙間から
誰かが
灰いろの遠い空をながめていた
まだ光がどこまでもゆきわたり
無限といふものが少しづつ暗くなりかけていた
眠ったふりをしてゐると
風だけがやつてきて
黙って髪を梳けづつてゐる
すべてをみつめる生きものゝ眼が
ランプよりも巨大な思ひ出の下で
また何と小さなことであらう

6.15.1940(「形相」鮎川信夫)


 

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