『君は永遠にそいつらより若い/津村 記久子』
舞台は京都だ。主人公のホリガイさんは作者が通っていた大谷大学らしき大学の4回生で、就職も決まりまもなく卒業を控えている。ソニックユースやハスカー・ドゥなんかのUSインディのバンド名や、京都の御幸町や新町など知っているの通り名にほくそ笑み、序盤のとぼけた雰囲気に油断してさくさくと読みすすむと終盤に、いくつかの出来事があって、寒気がした。僕のココロは強引な力で摑まれたかと思うと、そのそのまま感情の奥に引きずり込まれ強く揺さぶられた。
それは文庫本の解説で松浦理英子が「文学の孕むものが読む者の胸の底、魂と呼ぶしかない深みにまで沁み入る」と書いているよう文学の力としかいいようがないものだ。
普通の生活の営みのその傍で、ぽっかりと穴を開けてひとが落ちるのを待っている根源的で普遍的な“悪”。その縁をかろうじて躱したり、ときになぞったりしながら過ごしているルーティンで平和な毎日のひそみで、悪は、無作為にひとを襲い、喰らう。その深い傷に痛みながら、その傷故にひとは、輪郭のはっきりしない生きる希望みたいなものではなく、はっきりとした生きる意思を持つのだ。
そういう意味で、腑抜けたJポップみたいな『君は永遠にそいつらより若い』みたいなタイトルより改題される前の『マンイーター』の方がこの小説のタイトルに相応しいと思う。
津村記久子の本は「カソウスキの行方」と「ポトスライムの舟」を読んでいたけれど、読後感が全然違う。まだ始まったばかりなのに、今年読んだ本のベストに決定だ。
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