2013年02月05日
『PINK/大森靖子』
『PINK/大森靖子』
前々回のエントリーで2012年のベストアルバムはチェリー・シングと書きましたが、邦楽(あんまり聞かないけど・・・)のベストは大森靖子(おおもりせいこ)のミニアルバム『PINK』でした。
大森靖子との出会いは、みなみ会館で上映されたドキュメンタリー映画『サマーセール』を観た去年の6月のことです。
『サマーセール』は、若手映画監督とミュージシャンがコラボした「MOOSIC LAB(ムージック・ラボ)」という企画のひとつで、大森靖子と監督の岩淵弘樹が過ごすラブホテルでの数日を軸に、映画を完成できない監督のグズグズした様子と、それでも唄い続ける大森靖子が街頭で歌うシーンを中心に構成されていました。
映画の終盤、聴衆のまったくいない中、アルタ前の路上でギターを掻きならし、全霊をかけて舌ったらずで唄われる「PINK」に、僕の魂はわしづかみにされたのでした。恋に落ちたと言っても過言ではありません。YOUTUBEで彼女の歌を見る度にドキドキしてしまいます。
“あたしが少女でいれるようにピンク色をくれ”と唄われる「PINK」は、大森靖子が大森靖子でいるために歌を歌うしかないと表明するようなパンクでロックな曲でした。少女で居られなくなる切なさと、それに相反して大人になりたい欲望と限界が、歌を歌う歓びと共に表明されています。残念なことに妙なアレンジが僕にはいまいちで、映画のようにアコギ一本で歌われる方がずっと彼女の声が僕の芯に届いてきます。
“ときどき歌舞伎町にいかないと幸せがわからない”という「パーティードレス」の歌詞が示すように、椎名林檎を想起するかも知れないけれど、大森靖子はもっと生々しくて、全然売れていなかった頃のエレカシの宮本に似ています。そんな大森靖子のファーストフルアルバム『魔法が使えないなら死にたい』が3月にリリースされます。ライブも見たいです!
2013年01月12日
チェリー・シングが2012年のベストアルバム
『CHERRY THING/NENEH CHERRY & THE THING』
去年買ったアルバムの中で、最も愛聴したのがこの『CHERRY THING』だ。
リップ・リグ&パニック時代からソロに至るまで、すばらしいアルバムを残してきたネナ・チェリーがマッツ・グスタフソン率いるザ・シングと組んだアルバムだ。基本的にカバーが主体なのだが、一曲目ネナの新曲「Cash Back」がとにかく恰好いい。ネナのボーカルにフリーキーなサックスが絡んでいく。ネナ・チェリーの声が好きなので、彼女の歌はどれも無条件に受け入れてしまうのだけれど、ジャズとロックとアバンギャルドがバランスよく配分されていて大人のロックに仕上がっているのだ。比較するものではないが、清志郎が梅津さんのバンドとコラボした『DANGER』を思い出した。
マッツ・グスタフソンはどっかで聞いたことのある名前だと思ったら、ジム・オルークやサーストン・ムーアらと共演しているひとで、僕の持っている彼らのアバンギャルドなアルバムにも名前がクレジットされていた。それはまったくフリーキーでノイジーなアルバムだったりするので、ホコリをかぶったまま行方知れずになっている。
ストゥージズやスーサイドなんかの曲をカバーしていて「Cash Back」以外はわりとジャズっぽいアレンジになっている。このアルバム、僕が手に入れる前に一緒に釣りにいくTさんが持っていて、釣場に向かう深夜の高速道路で聴いたのだがドライブにはまったく向いていません・・・。
2012年11月05日
2012年の戸川純
大阪梅田のライブハウスAKASOで、戸川純のライブを観た。1983年にリリースされた『玉姫様』からほぼ30年。かって好きなアイドルは?と聞かれて戸川純と答えていたにもかかわらず、ライブを観たのは実ははじめてだったのだ(生の戸川純は数年前に二人芝居を観たことがある)。
1曲目の「諦念プシガンガ」でいきなり昇天。もう最高だ。言葉にならない。なんならこの1曲でライブが終わっていても僕は満足していたに違いない。
しばらく前から腰が悪くてリハビリを続けているらしく、基本的に座ったままだったので、少し見にくかったのは残念だったけど、それがどうしたというのだ。戸川純がステージに立ち「玉姫様」や「蛹化の女」を歌っているのだ。腰を庇うせいか、曲間のMCもいちいち長かったし、途中で休憩をはさんだ二部構成になっていたとはいえ、アンコールの「パンク蛹化の女」まで全25曲。「諦念プシガンガ」だけで満足したのに2時間半も幸福な時間が続いた。
妹の戸川京子が「バーバラ・セクサロイド」の振り付けの一部を考案したエピソードや、彼女自身がヤプーズのセカンド『大天使のように』を気にいっていなくてボックス以外に再発を許していない(僕もあのアルバムがピンとこなくて、ヤプーズ及び戸川純と疎遠な90年代を過ごしてしまったのだ。それはまさに失われた10年間だ)ということ、「電車でGO」で一緒にコブシを振り上げるように、はにかみながら話す様子、ときに冗長だと感じたMCも思い返してみると、どれもかけがえのないものだったと感じる。
30年のキャリアを網羅するような選曲はまさに戸川純ベストいうべき内容だった。なによりファルセットはあまり出ないと云っていたけれど、戸川純の声ははじめて『玉姫様』をきいたときからちっとも変わっていない。時間も空間も超えて戸川純は戸川純だった。
来年もまた観に来よう。
ライブからの帰りにはiPodにいれてある『TOGAWA LEGEND』を聞きながら僕はまたニヤニヤしてしまったのだ。
戸川純事務所のtwitterにこの日のセットリストがアップされていました。
第一部:諦念プシガンガ、コレクター、コンドルが飛んでくる、12階の一番奥、金星、赤い戦車、ヒステリヤ、憤怒の河、蛹化の女、眼球綺譚、ローハイド、NOT DEAD LUNA、フリートーキング
第二部:肉屋のように、Men's JUNAN、玉姫様、シャルロット・セクサロイドの憂鬱、サンプルA、吹けば飛ぶよな男だが、電車でGO、母子受精、バージンブルース、バーバラ・セクサロイド、レーダーマン
アンコール:パンク蛹化の女
■戸川純事務所twitter
2012年07月14日
『The Sweet Passioin/ズボンズ』
いつの間にかリリースされていたズボンズの新譜。PVを集めたDVDがセットになっているのも嬉しいのだが、なにより2011年3月のカリフォルニアと今年の3月に録音された新曲の数々が素晴らしい。
ズボンズは、ズボンズのまま純度を高めて比類なきグルーヴを鳴らしている。それは歓喜のグルーブだ。哀しみや迷いを乗り越えたタフな音楽だ。航海の途中、目印になるような強い光を放っている星をズボンズは見つけたのだ。それは悩みも迷いも全て受け入れた上で進むべき方向に間違いのないことを教えてくれる指針となるような星だ。
そしてその音は僕らを優しく包み込んで、しなやかに揺らすのだ。とにかく素晴らしい。こんなときにyoutubeを見始めたらたいへんだ。ビール片手に夜が更けるのをまったく忘れてしまう。いつの間にか狂ったように踊りだす。ライブ会場にいるかのようにコール&レスポンスに一緒に手を振り上げている。イエェーッ!!!
2012年03月03日
『BONE TO DIE / LANA DEL REY』
『BONE TO DIE / LANA DEL REY』
ロッキンオンで去年からプッシュされていたラナ・デル・レイ。YOU TUBEで「VIDEO GAMES」のビデオクリッップを観て、感情を押し殺しあらかじめ失われた世界で二度とさめない夢について語るようなその唄に、一瞬で惹かれてしまった。
誰もが知っているのに誰もが知らないふりをしているアメリカの裏側を暴いたジェームス・エルロイの小説のようだとも思った。暴力と無力に支配され荒廃した郊外の町を描いたハーモニー・コリンの映画のようだとも思った。ラナ・デル・レイの声は、悦びも哀しみのない世界の果てでメランコリックに響いていました。
で、リリースされたアルバムを早速購入したのですが、「VIDEO GAMES」以外の曲がちっともピンとこなくて困ってます。単調で退屈です。「VIDEO GAMES」だけiPodに入れて、このアルバムはCD棚の奥の方に埋もれてしまいそうです。そういえば、タワーレコードには試聴コーナーすらできていませんでした。あぁ。
もう一回「VIDEO GAMES」のビデオクリップをみました。ひとつわかったことがあります。僕は、彼女のあひるクチビルに騙されただけなのかも知れません。気怠く拡げられたその厚いクチビルに・・・。
2011年06月21日
『ストーン・ローリン/ラファエル・サディーク』
『Stone Rollin'/Raphael Saadiq』
滅多に試聴しないタワーレコードのブラックミュージックコーナーで見つけたラファエル・サディークの「ストーン・ローリン」。一曲目のスライっぽいごきげんなファンクナンバーを聴いたときにほぼ購入を決めてました。2曲目以降も60年代〜70年代のソウル、ブルース、R&B、ロックンロールの旨味成分を滋養としてスクスク育ったような曲が並んでいて、フフフンと鼻歌まじりでレジに持っていきました。
リアルタイムのブラックミュージックについては全く詳しくないので、ラファエル・サディークがどんなミュージシャンなのかも知らなかったのですが、トニー・トニー・トニーというグループ名は聴いたことがあります(調べてみると88年のデビューです)。ソロになってから、これは4枚目のアルバム。トニー・トニー・トニー時代からすると結構なベテランです。ベテランだけど、楽曲は力強くて勢いがあります。きっとライブも楽しいに違いありません。
『Stone Rollin'』という、どこにでも転がっていそうなアルバムタイトルが、実に相応しい粒ぞろいのナンバーが並んでいて、この頃よく聴いています。何年かたって、久しぶりに聴いたときには、きっと今年のジメジメした梅雨を思い出すくらい、2011年の初夏から梅雨にかけてのお気に入りです。
前のソロアルバムも欲しくなりました。